special

思いつきと巡り合わせで生まれる「小さくて特別なもの」。

わたしたちがしようとしていることは

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COYAの客席はたくさんの人で埋まっていて
押し出されるように厨房の隅に立って誰かの声を聞いていた
今年一年聞いてきた誰かの声
うまくいった夜も
声がうわずった夜もあった誰かの声を聞きながら
ふと天井を見上げ
こんな天井だったんだと思った
何度も立った場所なのに
こうして天井を見上げるのははじめてのように思えた
うちっぱなしのコンクリートにペンキが塗ってあるグレーがかった白い天井
しんと静かな清潔感と誠実さが天井にまで宿っている
毎日ここで働く人の吐く息や鍋からのぼる湯気に撫でられる厨房の天井
こういう場所を借り受けて
させてもらっているのだと
あらためて思う
忘れてはいけないと思う
天井のすぐ下の壁にはモノクロの写真が貼ってある
床に座り込む聴衆を前にケルアックが両手を広げて朗読している写真
この会が一年続いたときに
ほら、これ、ここのライブに似てない? と店主のジュンさんが貼ってくれた
嬉しくて、まいまいに指さして知らせて
ほら、わたし達はあれをやってるんだよ、と言ったら
まいまいは涙を流しながら笑って頷いたんだった
自分たちがどこへ向かっているのか
この道がどこかに続いているのか
あの頃はちっともわからなかった
今もわからないけど
わからないことで不安にならないくらいには場数を踏んできた
書いて、読んで、恥ずかしい思いも悔しい気持ちも情けない後悔も味わってまで
わたし達がしようとしていることは......
誰かが歌ったうろ覚えの歌を歌いながらポケットに手を突っ込んで歩く帰り道
からっぽのポケットははじめひんやりしているけれどだんだんに温かくなる
それはわたしの手の持っている温かさが小さなポケットを満たすからだ
死んだ人の手をポケットに入れておいても
きっとこんなふうに温かくはならない
温かい血の流れる手は
はじめは冷たくてもすぐに温かさを思い出して
取り戻して
小さなからっぽのポケットを温かくする
そのポケットがまた
わたしの手をさらに温かくする
うろ覚えの歌とからっぽのポケット
それだけの帰り道
わたし達がしようとしていることは
こんなにも小さい
空の星みたいに小さい

2010.01.28 14:07