special

思いつきと巡り合わせで生まれる「小さくて特別なもの」。

2010年3月

Biweekly poet vol.2

TAMBOURIN GALLERYにて行われた朗読会から。


Biweekly poet vol.2 鈴川郁子 3月25日
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顔をながめる

誤解せず 最後まで聞いてほしいのだけれど

朝 洗面所の鏡に映った自分の顔を見るのが好きだ

毎朝眼鏡をはずして 見えなくなった自分の顔を

鏡にぶつかりそうな距離まで 近よって確認する

すると ああ 昨日は夫の飲んだあとのシメに付き合って

私もデザートを食べてしまったから顔がむくんでいる だとか

昨日は夕飯を減らしたから 

なんだか顔がすっきりしている だとか

大した変化でもないけれど 一人で観察しながら一喜一憂する

そんなふうに自分の顔を眺めていると

ふと今日の自分の顔は昨日の自分から受け取った顔なんだな なんて思う

きっと今も 様々な時間の自分が混ざっている顔をしていて

そしてそれを周囲の人達に見られてもいる

人間関係や

自分の体形

趣味

着ている服 etc... ...

沢山の物の中にも

過去と今の自分は混ざって存在しているんだよなと改めて思う

思いっきり泣いて 泣いたままいつの間にか眠ってしまった朝も

自分の顔を見ながらふと思った

誰かと気持ちがすれ違ってしまった時や

ああ失敗したあの一言 なんて後悔した時

ガツンと落ち込んでしまうけれど

昨日の自分や明日の自分にも助けてもらおうって

考えてみてもいいんじゃないかって

明日は 彼に元気にあいさつしてみようとか

今度 昨日彼女が話していた話題を話しかけてみよう とか

今だけではなく 色んな時間の自分の力を借りて

あなたや彼や彼女やあの人たちとつながってみる

昨日 今日 明日へと自分をつなげて

新しい日々をつくってみるってどうだろう

そんなことが自分を信じるってことなんじゃないかって

自分の顔をみながら思ったんだ

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2010.03.27 12:46

マーガレット読書クラブ「のりもの」前編

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イラスト/イシカワアユミ

発作的に結成しました。「マーガレット読書クラブ」。テーマにそった本をもちよって語り合うという会です。

第1回目は『マーガレットプレス』製本担当の、まいまいこと坂本真衣子とわたしと、記録係にイシカワアユミさん、というメンバーで行いました。

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まいまいです。

まいまいとわたしという組み合わせにはちょっと不安があります。
以前、よしもとばななの『王国』の会というものをやったことがあるのですが、わたしもまいまいも批評めいたことはいっさい言えず「よかったねえ」、「よかったよねえ」とうっとりして終わったからです。

今回もそんなか?

間違いなくいえるのは、けして「書評コーナー」ではない、ということです。
ぜんぜん書評してません。

まずごはん。
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あれ? もうビールがグラスに注がれちゃってますね。
だいじょうぶか。ちゃんと話できるのか?
■■■
村椿 
第1回のテーマは「のりもの」。
「のりもの」の本、もってきた?


坂本 
何冊か選んできたよ。
テーマは「新幹線とオレ」。


村椿 
「新幹線とオレ」?


坂本 
今まで新幹線のなかで読んできた本を持ってきた。

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『犬が星見た』 
 武田百合子 中央文庫
『絵本を抱えて部屋のすみへ』
 江國香織 新潮文庫
『わたしの脇役人生』
 沢村貞子 新潮文庫
『第三阿呆列車』
 内田百閒 新潮文庫
『父の詫び状』
 向田邦子 文春文庫


坂本 
帰省するでしょ(岡山県出身)、新幹線で。
すこし前まで「のぞみ」じゃなくて「ひかり」で帰っていて、
4時間ひとりで新幹線に乗るの。
4時間になるとさすがに読むものがほしい。
それでね、ここが重要ポイントなんですが。
新幹線ってけっこう揺れるんですよ。


村椿 
そうだー、新幹線、意外と揺れるよね。


坂本 
だからね、文体が難しかったり長すぎると酔う。


村椿 
わかる。新幹線って酔うよね。
かといって、あまり内容がくだけすぎてもだめでしょ。


坂本 
これは書名は言わないけど。
一度すごくくだけすぎたものを選んでしまってつまらなくなって5分くらいで投げ出したことがある。


村椿 
そこから先、長いじゃん。スペアは持ってなかったの?


坂本 
だって荷物になるから、毎回1冊に賭けるんだよ。


村椿 
それじゃあ5分でなげだしちゃったらそこから先は飲むしかないね。


坂本 
そうだね。ビール飲んじゃうよね。


村椿 
そう言われたら「新幹線の本」って「入院の本」と似てるね。


坂本 
入院?


村椿 
わたし出産で3回入院してるでしょ。
特に最初に出産したときは子どもが未熟児で保育器に入っちゃってたからものすごく暇で。
家から雑誌とか本とか何冊か持ってきてもらったんだけど、
内容がくだけすぎてても疲れるし、難解でも疲れちゃう。
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坂本 
そうでしょ。くだけすぎも辛いよね。


村椿 
質が良くてカジュアルなものが読みたかった。
わたしはあのとき開高健のエッセイを読んでたな。


坂本 そう。質が良いっていうのが重要ポイント。


村椿 このラインナップにはハズレがなさそうだね。

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村椿 
『第三阿呆列車』は読んだことあるな。
書き出しにものすごく惹かれたっていう記憶がある。


坂本 
そうなの。書き出しね。


村椿 
そうそう、これ。

「行っても長崎に用事はないが、用事の有る無しに関わらずどこかへ行くということは用事に似ている。だから気ぜわしない。」

この書き出しに心打たれて。


坂本 
素晴らしいよね。このしちめんどくさい文章(笑)。


坂本 
内田百閒は岡山県出身の人なので。


村椿 
あー、そうなんだ。


坂本 
岡山に百閒川っていう川があって、そこから名まえをとったんじゃないかな。


坂本 
こうして選んだものを見てると、
帰省するっていうことでずいぶんノスタルジックな気持ちで本を選んでるんだなって思う。


村椿 
へー、そう。

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坂本 
そうだね。
沢村貞子は今回あらためて読み直してみたんだけど
「あー、わたし寂しかったんだな」って思ったの。


村椿 
どうして? 寂しいときに読む本なの?


坂本 
違う、違う。
江戸っ子気質で「こういうことはいけないのよ」みたいなことをバシッと言ってくれるような、
人に厳しいようで、情に厚くてやさしくて。
この本を手にとった頃、
こういう人が周りにいなかったんだよな、いてほしかったんだよな、って。



村椿 
『小豆島の札所』、これは?


坂本 
これは新幹線で読むっていうわけじゃないんだけど、
父さんと母さんに見せようと思って持っていった本なんだ。(ご両親は小豆島出身)

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坂本 
小豆島のなかには四国と同じ数だけ、八十八カ所の札所があって、
ぜんぶまわると四国八十八ヶ所まわるのとおなじご利益があるって言われてる。
新幹線に乗るっていうこと自体がね、
こういうことに思いを馳せるっていうことと直結してるんだよね。


村椿 
帰省っていうのをわたしはしたことがない。
湘南地区から出たことがないから。
きっと帰省ってその人にとって特別なものなんだろうね。
これから帰るっていうときのね。


坂本 
しかも新幹線で4時間だからね。1日仕事なのよ。


村椿 
帰るんだ、あたし帰るんだ、っていう気持ちなわけだよね。


坂本 
いろんなフクザツな気持ち。


村椿 
そういう時間のおともになる本なんだから、それってすごいね。


坂本 
ちなみに、これはぜんぶ行きの新幹線で読む本。


村椿 
あ、そうなんだ。帰りはどうするの?


村椿   
帰りの新幹線ではどうするの? 本読まないの?


坂本   
帰りは読まないの。泣いてるの。

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村椿   
えー、今でも?


坂本   
今でも(笑)。とまらないんだよね、涙が。


村椿   
泣いて、飲んでるの?


坂本   
泣いて、飲んでる。
あんまりずっと泣いてるから、
隣り合った人から「どうしたの?」って聞かれて、
「実は父さんと母さんと離れて暮らしていて、寂しくて」って話したら
その人も「まあ、わたしも息子と離れて暮らしてるのよ」って泣き出して
一緒に泣いてたり。


村椿
今も、なの?


坂本 
今も。今、思い出しても涙がでる。


村椿 
じゃあ帰りの本はいらないんだ。


坂本 
読めないんだよね、泣いてるから。
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坂本 
唯一、帰りに岡山で買ったのが江國香織の『ホリー・ガーデン』。
これを買った頃も泣いてたんだけど、今ほどウェットじゃなくて、まだ本が読めた。


村椿 
何年前?


坂本 
平成11年に買ってるから、11年前だね。
でも新幹線のなかで読んだときはあんまりおもしろいと思わなかったんだ。
新幹線で読むには長かったんだろうね。

あとがきのところの言葉が好きで。

「なぜだか昔から、余分なものが好きです。
 それはたとえば誰かのことを知りたいと思ったら、その人の名前とか年齢とか職業とかではなく、その人が朝なにを食べるのか、とか、どこの歯みがきを使っているのか、とか、子供のころ理科と社会とどっちが得意だったのか、とか、喫茶店で紅茶を注文することとコーヒーを注文することとどちらが多いのか、とか、そんなことにばかり興味を持ってしまうということです。
 余分なことと、無駄なこと、役に立たないこと。そういうものばかりでできている小説が書きたかった。」

だから話のスジがどうこうとかじゃないんだよね。
江國香織の小説ってスジがあるようで、ないでしょう。ものすごい事件とかないし。
登場人物の性質によって成り立ってる。そこが好き。

この本以来、帰りの本はない。


村椿 
そっかー。そんなに泣くのかー。


イシカワ 
泣くよー。
わたしは30過ぎてから泣けるようになった。
親のこととかね、考えると泣けるよ。


坂本 
うん。
なんかあんまり本の話じゃなくて申し訳ない。
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2010.03.26 12:44

マーガレット読書クラブ「のりもの」後編

村椿 
じゃあさ、わたしの本の話にいってもいい?


坂本 
うんうん。

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村椿 
すごいなんか、散漫なんだけど。

まず、池澤夏樹『パレオマニア』(集英社文庫)。
これは大英博物館の収蔵品に惹かれた男が、
その物が実際に生まれた土地に行くって話なんだけど。
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村椿 
えっと、まず気に入らないところを挙げると(笑)。
池澤夏樹の本って読んだことある?


坂本 
うん。


村椿 
池澤夏樹の都市批判、文明批判みたいなのってわかる? 鼻につく感じ。


坂本 
はいはい。


村椿 
それがね、最初すごくいやだったの。
そうはいっても今の日本にもいいとこいっぱいあるぜ、って言いたくなるようなことが
いっぱい書いてあるの。
でもその「いやさ」を乗り越えて読んでると、読み物としておもしろくなってくる。
わたしは書いてあることみんな読んだそばから忘れちゃうから
読んだからって物知りになったりはしないんだけどね、
ちょっと旅っぽい気分のときにぱらぱらっと読むとおもしろい。


坂本 
そういう作家っているよね。
素晴らしいと思うんだけど、その物言いが、ちょっとおまえ、って思うような人。


村椿 
そうそう。「その物言いが、おまえっ!」っていう人ね。


坂本 
そこを乗り越えないとね。


村椿 
ぜんぶには賛同しないけど、まあでも付き合うよ、聞くだけは聞くよ、っていうね。

わたしなんかぜんぜんこういうことに詳しくないし、無教養だけど、
それでもおもしろく読める。
飛行機嫌いだから乗らないけど、
でもね、海外旅行なんか行くときに行きの飛行機で読んでも良いかなって思う。
旅への気持ちが盛り上がるんじゃないかな。


坂本 
目次だけ読んでもおもしろそう。


村椿 
でもさ、今言って気がついたけど、確かに「行き」だね。
帰りに読もうとは思わないかもね。


坂本 
帰りはみんなもう思い出で胸がいっぱいなんだよ。


村椿 
行きだね。行きの本だね。


坂本 
それともなければ帰りは寝るんだよ。


村椿 
あと、柴崎友香。
「のりもの」がテーマ、って思ったときに、この人のはどれも「のりもの」だなって思った。

柴崎友香ってわたしとおなじ年の大阪の作家なんだけど、
単純に「梅田の駅の」とか地下鉄とか、
移動に関しての記述が多いってこともあるんだけど、
なんかね、登場人物に漂流感っていうか、浮遊感があって。根っこがない感じ。


坂本 
わたしこれじゃないのは読んだことある。


村椿 
なに読んだ?


坂本 
『青空感傷ツアー』と『きょうのできごと』(どちらも河出書房新社)
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村椿 
ああ、読んだ。


坂本 
今考えたらどっちもなんかに乗ってるね。


村椿 
『青空感傷ツアー』はすっごいかわいい我がままな女の子が出てきてね。


坂本 
で、トルコですっごい喧嘩とかするんだけど
最後に「もっかいおんなじところ回ってもいいと思ってるで」みたいなことを言うんだよね。


村椿 
どの登場人物にも、ひとところに定まらない感じっていうのがある。
だから柴崎友香はぜんぶ「のりもの」って感じがする。
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村椿 
この『ショートカット』(河出書房新社)なんか
「なあ、オレワープできんねんで、すごいやろ」っていう書き出しなの。
行きたいと思う場所へはどこへだって行けるんだよ、っていう話。

この男の子には好きな女の子がいて、その子は表参道にいるの。
表参道は美しい場所やで、表参道に行ったことないなんて人生の損失やな、って
その男の子は言うの。
なんでそんなに表参道が美しいかって、大好きな女の子がいるからなんだよね。

どこだって行ったらいいし、行けるんだよ、っていう話。
わたしなんてほんとに出不精で湘南地区からほとんど出たことないからね。
ああ、行きたかったら行けばいいんだ、ってね、気づかせてくれた本。


坂本 
柴崎友香さんってほかにはないような小説だよね。


村椿 
人から「どんなところがおもしろいの?」って聞かれて答えようのない小説。
だからさ、保坂和志、磯崎憲一郎、青木淳悟、柴崎友香ってさ、
何がおもしろいって人に聞かれて「読んでみなよ」としか言えない。

磯崎憲一郎読んだことある?


坂本 
ない。


村椿 
『肝心の子ども』(河出書房新社)、すーっごいおもしろい。
これなんかもう小説そのものが「のりもの」。
一瞬もひとところに留まってない。


坂本 
なあやさん、これ貸して。




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村椿   
結局さ、わたしは「移動」っていうことに関してあまり現実的じゃないね。
通勤電車に乗るわけじゃないし、
ほんとに自宅の半径何百メートルってとこで暮らしてるから、なんか飛び方が違うね。


坂本   
なんかね。


イシカワ 
現実的な移動っていうより「妄想」だよね。


村椿   
その最たるものが、これ。

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村椿 
知ってる? これ。
中川ひろたかさんの『バスなのね』(ブロンズ新社)。
これなんか完全に妄想だよ。
バスごっこ。
家のなかで椅子を並べて、「バスなのね」っていって男の子がバスの運転手さんになるの。
そうすると空想のなかでどんどんその空間がバスになっていく。
子どもの頃やらなかった? そういうの。


坂本 
やった、やった。


村椿 
この本読んだとき、すっごい懐かしかった。
もうほんとに家のダイニングがバスになっちゃうんだよね。


坂本 
それ以外はありえないっていうね。


村椿 
お客さんが乗ってきて、停留所があって、ほんとにバスなんだよ。
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村椿 
今回、読書クラブをやるよ、テーマは「のりもの」だよ、ってメールを回したときに
「もうすぐ春なので、乗り物に乗って外に出たくなるようなものを」
なんて呼びかけておいてさ。


坂本 
そうだったね(笑)。


村椿 
自分が選んだ本は超内向きだったよ! 
妄想だもん。


坂本 
そういわれればわたしも内向きだよね。
帰省するときの心理状況ってものすごい内向きだもん。
「あたしの世界」だから。


村椿 
「あたしの物語」だもんね。


坂本 
「あたしの物語」だよ。


村椿 
そっかー。
メンバーのなかにもうちょっと「旅大好き、イェーイ!」みたいな人が入ってたら
またぜんぜん違ったね。


坂本 
違うと思う。


村椿 
ほんとだー、ふたりとも内向きだね。


坂本 
内向きだよー。
しかもそういうところにうっとりするタイプ(笑)。


村椿 
ウェットだったなあ(笑)。


坂本 
かなりウェットだったね。

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語り/坂本真衣子 村椿菜文 イラスト/イシカワアユミ
第1回マーガレット読書クラブ
おわり




2010.03.26 12:43

Biweekly poet vol.1

TAMBOURIN GALLERYにて行われた朗読会から。


Biweekly poet vol.1 村椿菜文 3月25日
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わたしたち

わたしたちがいます。
ここに、わたしたちがいます。
わたしたちというのはわたしとあなたのことです。
ときどき、わたしたちは間違えます。
誰かが「わたしたち」と言うのを聞いたとき
それをわたしとは別の「わたしたち」という人のことだと思ってしまうのです。
わたしたちというのは、わたしとあなたのことです。
わたしたちは地球と仲良くしなければなりません、と言うとき
わたしたちというのは、わたしとあなたのことです。
わたしたちは誰も傷つけてはいけません、と言うとき
わたしたちというのは、わたしとあなたのことです。

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ときどき、わたしたちは間違えます。
わたしたちというのはみんな同じ顔で同じ考えをもつ「わたしたち」という人のことだと思ってしまうのです。
わたしたちはみんな、違います。
キスが好きな人がいます。
キスってどんなふうだろうと憧れている人がいます。
キスなんていつしたっけと遠い記憶を辿る人がいます。
みんな、わたしたちです。
わたしたちというのは、わたしとあなたと、あなたの両隣にいる人のことです。
ほっぺにキスするのが好きな人がいます。
まぶたにキスされるのが好きな人がいます。
キスするより肩に噛み付く方が好きな人がいます。
酔っぱらって知らない人にキスするのが好きな人がいます。
男の人のジョリジョリの顎に手を触れるのが好きな人がいます。
女の人の膝の裏を見つめるのが好きな人がいます。
みんな、わたしたちです。
わたしとあなたと、あなたの両隣にいる人です。

悲しいことがあったとき、早くひとりになりたいと家路を急ぐ人がいます。
誰かに会いたくて電話をかける人がいます。
人の言葉に傷ついて眠れない夜にお酒を飲んで泣く人がいます。
お風呂の湯船で膝を抱えて泣く人がいます。
傷ついてなんかいないと頬に力を込めて笑う人がいます。
夜中に猛然とアップルパイを焼く人がいます。
鍋を磨く人がいます。
どれもわたしたちのやり方で、わたしたちはそれぞれの時間をそれぞれのやり方で過ごします。
肩が触れ合う距離に座っていても、わたしとあなたとあなたの両隣にいる人は、こんなに違う。
ぜんぶわからなくても好いのです。
わかるときにはわかると言って、わからないときにはわからないと言えば好いのです。
スパゲティを音をたててすするのが嫌なら無理に好きになることはないのです。
わたしたちは、ときどき行き過ぎます。
わたしたちというからには、みんな同じ方向を向いて同じことを考えなければならないと。
そっと触れただけでびっくりする人もいるし
ぎゅっと握らないとわからない人もいて
同じやり方で同じことを同じだけ伝えるなんていうことはできなくて
だから、投げかけたものを受け取ってもらえなくても気に病むことはなくて
笑顔でその場を立ち去ればいいだけのことで
それは勝ち負けや損得ではなくて、ましてや善悪でもなくて。
わたしたちというのはわたしとあなたのことで
わたしとあなたは顔も髪の毛の太さも足の指の形も違うけれど
隣に座って挨拶を交わすくらいのことはできるということです。
ときどきは話もできるし、もう一歩踏み込んで手をつないでみてもいいし
大きな声で名前を呼ぶことが、できる日もくるかもしれません。
わたしたちというのは、わたしとあなたと、あなたの両隣の人のことです。
束になって何かに立ち向かうこともできるし
別々の部屋で別々の本を読んでいることもできる
わたしとあなたのことです。
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2010.03.13 08:51