
イラスト/イシカワアユミ
第1回目は『マーガレットプレス』製本担当の、まいまいこと坂本真衣子とわたしと、記録係にイシカワアユミさん、というメンバーで行いました。

まいまいです。
まいまいとわたしという組み合わせにはちょっと不安があります。
以前、よしもとばななの『王国』の会というものをやったことがあるのですが、わたしもまいまいも批評めいたことはいっさい言えず「よかったねえ」、「よかったよねえ」とうっとりして終わったからです。
今回もそんなか?
間違いなくいえるのは、けして「書評コーナー」ではない、ということです。
ぜんぜん書評してません。
まずごはん。

あれ? もうビールがグラスに注がれちゃってますね。
だいじょうぶか。ちゃんと話できるのか?
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村椿
第1回のテーマは「のりもの」。
「のりもの」の本、もってきた?

坂本
何冊か選んできたよ。
テーマは「新幹線とオレ」。
村椿
「新幹線とオレ」?
坂本
今まで新幹線のなかで読んできた本を持ってきた。

『犬が星見た』
武田百合子 中央文庫
『絵本を抱えて部屋のすみへ』
江國香織 新潮文庫
『わたしの脇役人生』
沢村貞子 新潮文庫
『第三阿呆列車』
内田百閒 新潮文庫
『父の詫び状』
向田邦子 文春文庫
坂本
帰省するでしょ(岡山県出身)、新幹線で。
すこし前まで「のぞみ」じゃなくて「ひかり」で帰っていて、
4時間ひとりで新幹線に乗るの。
4時間になるとさすがに読むものがほしい。
それでね、ここが重要ポイントなんですが。
新幹線ってけっこう揺れるんですよ。
村椿
そうだー、新幹線、意外と揺れるよね。
坂本
だからね、文体が難しかったり長すぎると酔う。
村椿
わかる。新幹線って酔うよね。
かといって、あまり内容がくだけすぎてもだめでしょ。
坂本
これは書名は言わないけど。
一度すごくくだけすぎたものを選んでしまってつまらなくなって5分くらいで投げ出したことがある。
村椿
そこから先、長いじゃん。スペアは持ってなかったの?
坂本
だって荷物になるから、毎回1冊に賭けるんだよ。
村椿
それじゃあ5分でなげだしちゃったらそこから先は飲むしかないね。
坂本
そうだね。ビール飲んじゃうよね。
村椿
そう言われたら「新幹線の本」って「入院の本」と似てるね。


坂本
入院?
村椿
わたし出産で3回入院してるでしょ。
特に最初に出産したときは子どもが未熟児で保育器に入っちゃってたからものすごく暇で。
家から雑誌とか本とか何冊か持ってきてもらったんだけど、
内容がくだけすぎてても疲れるし、難解でも疲れちゃう。

坂本
そうでしょ。くだけすぎも辛いよね。
村椿
質が良くてカジュアルなものが読みたかった。
わたしはあのとき開高健のエッセイを読んでたな。
坂本 そう。質が良いっていうのが重要ポイント。
村椿 このラインナップにはハズレがなさそうだね。

村椿
『第三阿呆列車』は読んだことあるな。
書き出しにものすごく惹かれたっていう記憶がある。
坂本
そうなの。書き出しね。
村椿
そうそう、これ。
「行っても長崎に用事はないが、用事の有る無しに関わらずどこかへ行くということは用事に似ている。だから気ぜわしない。」
この書き出しに心打たれて。
坂本
素晴らしいよね。このしちめんどくさい文章(笑)。
坂本
内田百閒は岡山県出身の人なので。
村椿
あー、そうなんだ。
坂本
岡山に百閒川っていう川があって、そこから名まえをとったんじゃないかな。
坂本
こうして選んだものを見てると、
帰省するっていうことでずいぶんノスタルジックな気持ちで本を選んでるんだなって思う。


村椿
へー、そう。

坂本
そうだね。
沢村貞子は今回あらためて読み直してみたんだけど
「あー、わたし寂しかったんだな」って思ったの。
村椿
どうして? 寂しいときに読む本なの?
坂本
違う、違う。
江戸っ子気質で「こういうことはいけないのよ」みたいなことをバシッと言ってくれるような、
人に厳しいようで、情に厚くてやさしくて。
この本を手にとった頃、
こういう人が周りにいなかったんだよな、いてほしかったんだよな、って。
村椿
『小豆島の札所』、これは?
坂本
これは新幹線で読むっていうわけじゃないんだけど、
父さんと母さんに見せようと思って持っていった本なんだ。(ご両親は小豆島出身)

坂本
小豆島のなかには四国と同じ数だけ、八十八カ所の札所があって、
ぜんぶまわると四国八十八ヶ所まわるのとおなじご利益があるって言われてる。
新幹線に乗るっていうこと自体がね、
こういうことに思いを馳せるっていうことと直結してるんだよね。
村椿
帰省っていうのをわたしはしたことがない。
湘南地区から出たことがないから。
きっと帰省ってその人にとって特別なものなんだろうね。
これから帰るっていうときのね。
坂本
しかも新幹線で4時間だからね。1日仕事なのよ。
村椿
帰るんだ、あたし帰るんだ、っていう気持ちなわけだよね。
坂本
いろんなフクザツな気持ち。
村椿
そういう時間のおともになる本なんだから、それってすごいね。
坂本
ちなみに、これはぜんぶ行きの新幹線で読む本。
村椿
あ、そうなんだ。帰りはどうするの?
村椿
帰りの新幹線ではどうするの? 本読まないの?



坂本
帰りは読まないの。泣いてるの。

村椿
えー、今でも?
坂本
今でも(笑)。とまらないんだよね、涙が。
村椿
泣いて、飲んでるの?
坂本
泣いて、飲んでる。
あんまりずっと泣いてるから、
隣り合った人から「どうしたの?」って聞かれて、
「実は父さんと母さんと離れて暮らしていて、寂しくて」って話したら
その人も「まあ、わたしも息子と離れて暮らしてるのよ」って泣き出して
一緒に泣いてたり。
村椿
今も、なの?
坂本
今も。今、思い出しても涙がでる。
村椿
じゃあ帰りの本はいらないんだ。
坂本
読めないんだよね、泣いてるから。

坂本
唯一、帰りに岡山で買ったのが江國香織の『ホリー・ガーデン』。
これを買った頃も泣いてたんだけど、今ほどウェットじゃなくて、まだ本が読めた。
村椿
何年前?
坂本
平成11年に買ってるから、11年前だね。
でも新幹線のなかで読んだときはあんまりおもしろいと思わなかったんだ。
新幹線で読むには長かったんだろうね。
あとがきのところの言葉が好きで。
「なぜだか昔から、余分なものが好きです。
それはたとえば誰かのことを知りたいと思ったら、その人の名前とか年齢とか職業とかではなく、その人が朝なにを食べるのか、とか、どこの歯みがきを使っているのか、とか、子供のころ理科と社会とどっちが得意だったのか、とか、喫茶店で紅茶を注文することとコーヒーを注文することとどちらが多いのか、とか、そんなことにばかり興味を持ってしまうということです。
余分なことと、無駄なこと、役に立たないこと。そういうものばかりでできている小説が書きたかった。」
だから話のスジがどうこうとかじゃないんだよね。
江國香織の小説ってスジがあるようで、ないでしょう。ものすごい事件とかないし。
登場人物の性質によって成り立ってる。そこが好き。
この本以来、帰りの本はない。
村椿
そっかー。そんなに泣くのかー。
イシカワ
泣くよー。
わたしは30過ぎてから泣けるようになった。
親のこととかね、考えると泣けるよ。
坂本
うん。
なんかあんまり本の話じゃなくて申し訳ない。
