special

思いつきと巡り合わせで生まれる「小さくて特別なもの」。

2010年9月

Daily poet vol.18

タリラリラン 

タリラリラン
鼻歌うたって自転車こいで
その鼻歌の向こうに
なにがあるの
その鼻歌の向こうに
誰かの笑顔があったらいいな
その鼻歌の向こうを
誰かがくるんと指先ですくいとってくれたらいいな
タリラリラン
鼻歌うたって風きって
その鼻歌の向こうに
なにがあるの
その鼻歌の向こうに
あったかい日だまりがあったらいいな
その鼻歌の向こうに
ピカピカ光る愉快な水たまりがあったらいいな
水たまりを勢いよくジャンプして飛び越えたら
鼻歌の向こうをタリラリランと受けとってくれた誰かに
会えるかな
いつでも誰かに会いたいんだ
いつでも誰かに会えることを期待してしまうんだ
だってひとりは寂しいから
タリラリラン
強がったって仕方ないから言ってしまうけど
だってひとりは寂しいから
タリラリラン
一緒にうたってほしいんだ
そっと
ずっと
頬がふれるくらい近づいたり
隣の山に向かって「おーい」と呼んだら君も「おーい」と答えるくらいに離れたりしながら
一緒にうたっていたいんだ
タリラリラン
風にちぎれて消えそうな頼りない声だけど
タリラリラン
調子っぱずれのさえない歌だけど
この鼻歌の向こうに
誰かの笑顔があるんだと
自分で自分を励まして
タリラリラン

2010.09.30 07:25

Daily poet vol.17

カラクリ 

カラマワリのカラクリを知りたくて
息をつめて目をこらすほど
カラクリを理解する余裕から遠ざかって
カラマワリ
2010.09.29 07:17

Daily poet vol.16

繕う 

お裁縫は苦手だった
思いどおりに動かない指先を忌々しく見つめる時間は
自分の無能さを証明するためだけにあると思っていた
だから自分の人生から「家庭科」という時間割が消えたとき
わたしは嬉しかった
「数学」と「物理」が消えたときも嬉しかったけれど
「家庭科」が消えたのも嬉しかった
いまわたしは家庭にいて家族のために繕い物をしている
どこで空けたのか息子のTシャツの穴
何を引っ掛けたのか赤ん坊のカーディガンのポケット
好きな糸で
好きなリズムで
無能ぶりも有能さも何も証明しない
家族のためでもない
ただわたしだけの時間

2010.09.28 07:33

Daily poet vol.15

風邪をひいて 

鼻がきかなくて
きかない鼻ででたらめの味見をしてでたらめのミートソースを作っている
まな板の上で叩いたニンニクの匂いも
庭からつんできたローリエの葉の匂いも
しっかりと炒めたひき肉の匂いも
注ぎ込んだ赤ワインの匂いもわからないというのに
途中で息子が台所にやってきて好い匂いだと言うので
それほど間違った方向に進んでいるわけではないのだろうと自分を励まし
先へ進む
なんだか今日の料理はスイカ割りみたいだ
目隠しをされて
周りの声と残された感覚を頼りにスイカを目指して棒を振り回している
もっと右! もっと左へ!
もっとコショウを! オレガノをたっぷり!
色は好し
赤々と燃えるようだ
火加減も好し
ふつふつと波打ち際で小さな生きものが呼吸しているようだ
砂浜の上を一歩ずつ
左右の足を交互にゆっくりすり足でスイカを目指す
目隠しされていてもまぶたの裏にはしっかりと
スイカが見えているのだ

2010.09.27 07:50

Daily poet vol.14

100924

もうすでに体が
汗をかくことを忘れている



2010.09.25 08:53

Daily poet vol.13

空気の入れ替え 

棚の奥にあった古い本をひっぱり出したら
カビ臭いにおいとともにホコリが舞って
立て続けにくしゃみが3回でた
肺のなかの空気がすっかり入れ替わり
胸が丈夫にふくらんだ

2010.09.24 07:27

Daily poet vol.12

悲しい夜に 

裸足の猫が注意深い足取りで音を立てずにやってきて
ひっそりとよりそうので
抱きしめて眠った

2010.09.23 09:12

Daily poet vol.11

この道が 

この道が
通い慣れた道になる頃
わたしはどんな顔をして
どんな荷物を持って
どんな速度で歩いているだろう



2010.09.22 07:40

Daily poet vol.10

昼ごはん 

トマトのざく切り
ナスは輪切り
オクラは小口切り
タマネギがないので代わりに長ネギをみじん切り
ニンニクをひとかけ叩いてつぶす
ぜんぶをオリーブオイルで炒めたあとに水を注ぎ
塩と黒こしょうとオレガノで味をつけたあと
昨日の残りの冷やごはんを入れる
一煮立ちしたらお皿に盛って
粉チーズをたっぷり振る
パルメザンチーズではなくて粉チーズ
子どもの頃はチーズといえば雪印の6Pチーズで
あとは粉チーズとスライスチーズだった
こんなにかけたらお母さんに叱られると心配する必要もなく
思うさま粉チーズをふっている真昼の時間
大人になってよかったと思う

2010.09.21 08:11

Daily poet vol.9

夕方4時の 

夕方4時の商店街の片隅で
土をこねる人の横顔を見た
宮本陶房と書かれたガラスの扉の向こうで
長い髪を束ねた女の人が
リズミカルな動きで
後れ毛が顔にかかるのもかまわず
土をこねる
時計の針が進むのがその場所だけゆっくりなような
または速いような
曖昧ということはなく
ためらうということもなく土をこねる人の横顔を
わたしは見ていた

2010.09.19 09:38